とよたまひめ (Ⅱ)

豊玉姫(Ⅱ) 出産

 さて、海神の娘の豊玉姫は、夫がいなくなった後に、
妊娠している事に気付きました。
そこで、葦原の中つ国にやって来て、ホオリノミコトに言いました。

「私はあなたの子供を宿しました。もうすぐ生まれます。
どこで出産したらよいかと考えましたが、
天の神の御子となる子供ですから、海原で生むわけにはいきません。
ですから、こうして、参りました。」

 そう伝えると、すぐにその海辺の波打ち際で、
鵜の羽根を屋根に葺いて、産殿(うぶや)を造らせました。
ところがまだ産殿が出来あがらない内に急に産気づいてしまいました。
そこで産屋に入ってお産をしようとする時に、
夫のホオリノミコトに言いました。

「人間界と違う異世界の者は生む時になると、
本来の世界の姿になって生むものです。
ですから、私も本来の姿で生もうと思います。
どうぞ、私を見ないで下さい。」と。

 しかし、ホオリノミコトは「変な話だ。」と思って、
産屋を覗き見しました。
すると、妻は八尋和邇(やひろワニ=大きな海亀)となって腹這って、
うごめいていました。
ホオリノミコトは驚いて逃げました。

 豊玉姫は夫が覗き見した事を知って、本当の姿を見られたのを
恥ずかしく思って、そのまま御子を置いて、
「私はこの子を生んだ後も、常に海の道を渡って、
育てようと思っていました。
けれども、私の姿を見られてしまっては、
恥ずかしくてここには居られません。」と言って、
綿津見の宮へと通ずる海の境を塞いで帰ってしまいました。

 生まれた御子は生まれた時の様子から、
天津日高日子波限建鵜萱草葺不合命
(あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)と
名付けられました。

 国に戻った豊玉姫は夫が覗き見しなかったら、
こんな事にはならなかったのにと、恨みましたが、
恋しくて仕方がありませんでした。
妹の玉依姫が御子を養育することになったので、
妹に夫への歌をことづけて贈りました。

「赤い玉はその紐までも輝かせるほど、光輝いていますが、
それにも増して、白い玉のような清らかなあなたのお姿は貴いものでした」

これを見てホオリノミコトも返歌を贈りました。

「沖の鳥、鴨が棲むような遠い島で、一緒に寝たあなたを
私は忘れません。生きている限り」

 こうして、ホオリノミコトは高千穂の宮に580年間住まわれました。
お墓は高千穂の山の西にあります。
別の名前を日子穂穂手見の命(ひこほほでみのみこと)と言います。

(古事記 火遠理命の巻より)

 豊玉姫の生んだウガヤフキアエズノミコトは妹の玉依姫と結婚して、
その第四子が神武天皇になりました。

豊玉姫は海亀の化身?

 豊玉姫が八尋和邇の姿になって出産したのですが、この和邇とは何かが
昔から分かっていません。
鰐という字で書かれている本もあります。
これはサメだという説が学界では中心です。

でも、もっと古くには海亀のことをワニと呼んでいる事が分かりました。
また太占(ふとまに=古代の占いの方法)に用いる海亀の甲羅をワニと
呼んでいます。

そうすると、豊玉姫が浜辺で出産する理由がよく分かります。
海亀が腹這って砂の上を歩いて、涙を流しながら、卵を産む姿。
そして、卵を残して海に帰る姿がほうふつとします。

日本書紀ではホオリノミコトは櫛に火を灯して妻を覗き見しています。
これで夜の出産だという事が分かります。
海亀が夜に産卵するのと同じです。

ホオリノミコトを送り届けた一尋和邇も、亀の背に乗せて届けたと解釈すると、
浦島太郎とそっくりです。
ちなみに豊玉姫の生まれた和多都美神社の地を夫姫と言うんですよ。

日本書紀には豊玉姫が大亀に乗って戻って行ったとも書いてあります。 
こういう事で和邇をウミガメと訳しました。

一尋は? 両手を広げた長さです。これは自分の身長とほぼ同じです。
八尋は? 「八」には沢山という意味があります。
  八尋和邇はとても大きな海亀という程度です。


 伝承を訪ねて

和多都美神社 長崎県対馬市豊玉町
御祭神はヒコホホデミノミコト(ホオリノミコトの別名)と豊玉姫です。
二人の三年の結婚生活がこの地で営まれました。
海神である豊玉彦尊がここに宮殿を造り、この地を夫姫と名付けました。
ここで生まれ育った豊玉姫はここで亡くなり、
お墓が今でも伝えられています。

紫瀬戸 対馬の美津島町の三浦湾 
豊玉姫は、出産した後産の胎盤などをこの地で洗いました。
そのために、藻が紫になったと言い伝えられています。
また産湯のための水を汲んだ井戸が伝わっています。

志登神社 福岡県前原市
 豊玉姫が夫に会う為に上陸したと伝えられる所。
その近くには豊玉姫が髪を櫛けずったという岩があります。
ここは昔、海が入り込んでいた所だそうです。

若宮神社 福岡県糟屋郡新宮町の沖合の相の島
ご祭神は豊玉姫と玉依姫とウガヤフキアエズノミコトです。
この境内には井戸があり、そこは綿津見の宮に通じていると
言い伝えがあります。
小さな島ですが、海人族(かいじんぞく)たちの積み石の古墳が
浜辺に沢山並んでいるので有名です。

住吉神社 対馬の東海岸沿いの美津島町の鶏知(けち)
ご祭神は、ウガヤフキアエズノミコトと豊玉姫と玉依姫。
(住吉なのに住吉三神ではないんです!)

青木茂の『わだつみのいろこのみや』 ブリジストン美術館所蔵。
桂の木に隠れるホオリノミコト(山幸彦)と
それを見上げる豊玉姫と侍女が描かれています。
わずか一筋水底から泡が昇っていて、それが海の底だと教えてくれます。
神秘的な絵です。


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by himeluna | 2009-10-02 00:00 | 豊玉姫 | Trackback | Comments(0)
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